凶漢−デスペラード

7…二匹の龍

田代の件は、それ以上問い質される事は無かった。

翌日からは、再び普通の日常に戻った。

表面上は……

ある日、竜治が店に顔を出すと、ジュリが来ていた。

あの日以来、竜治はジュリを店には出さないようにしたのだが、現実には稼ぎ頭で名指しでジュリを呼びたがる客も多い為、暫くは指名の客が入った時だけ出勤させる事にした。

VIPコースの客は、通常の倍の料金を払う。

ジュリの客は、皆、一回の遊びに十万からの金をポンと払う連中ばかりだ。

今日もそういった客の一人に呼ばれたのだろう。

「…でね、アタシ薄気味悪くって、正直二時間も三時間もその客と一緒に居るのって耐えられないよ。」

上原に、付いた客の事で不満でも言ってるのだろうか…

「ジュリ、どうした?」

「あのね、最近付くようになった客なんだけど、アタシに指一本触れないで帰るの。」

「それって、お前らにしてみりゃ最高の上客じゃねえか。」

「でしょ、社長もそう思いますよね。」

上原が調子良く口を挟む。

「だから、さっきも言ったじゃん、何もしないだけじゃなく、何も話さないんだよ。」

「ジュリが話し掛けてもか?」

「そう。返事もしない。」

「そいつ、チョー内気のオタク野郎なんじゃねえの。」

どうでもいいだろうという表情で、上原がジュリに言った。

「どんな奴だ?」

「リュウちゃんと同い年位で、もっとイケメン。それに、すごい金持ち。お金くれる時、何時も財布の中を見ちゃうんだけど、百万以上入ってる感じだもん。」

「ウチのVIPコース頼むんだから、金持ちに違いはないさ。」

「それでも、ここんとこ連チャンだよ。」

「その客、本当に何もしないのか?」

「裸にだけはされる。でも、絶対触って来ない…アタシの裸をずっと眺めてたかと思うと、もういいよとか言って、自分は寝ちゃうの。最初は、何もされないから、ラッキーなんて思ってたけど、無言のままだから、段々薄気味悪くなって来ちゃって……」

「上原、その客はなんて名前で登録してる?」

「中村となってますけど…」

「多分日本人じゃないよ。一回だけホテルの部屋から一時間位電話してるの聞いたんだけどね、中国語話してた…」


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