凶漢−デスペラード
ジュリは、次からは自分を付けないでくれと、上原に頼み込んだ。
客の事で選り好みなどした事の無いジュリが、こう迄頑なに拒むとは珍しい。

竜治と上原には判らないだろうが、ジュリの女としての嗅覚が、はっきりと危険信号を点滅させているのかも知れない。

こういう仕事に就く女は、年齢に関係無く、危険に対してのアンテナが敏感になる。

外見は紳士であっても、二人だけになると180度豹変する客も少なく無い。
寧ろ、外見と遊び方がピタリ一致する事の方が少ないかも知れない。
だから、彼女達の嗅覚の鋭さは、理屈では無く自分の身を守る上で、絶対的に重んじなければならない勘なのである。

ジュリの嗅覚が、中村という客に対し、得体の知れない何かを感じたという事か……

段々、拒む言葉付きがただ事ではなくなっていた。

怯えさえ感じる。

さすがに、竜治も何かをジュリから察した。

「判った…大丈夫だ。もう、その客の相手をする必要はないよ。」

「…うん。」



中村と名乗る客は、翌日も電話して来た。

店長の上原が、電話に出ていた時、丁度竜治も店に顔を出していた。

「ジュリちゃんは当分お休みという事になりますので、もし宜しかったら、最近入ったモデルの卵の子が……」

やり取りを聞いていた竜治は、何故か電話の相手と直接話しをしてみたいという気になった。

「上原…」

手で、受話器を寄越せと合図をし、上原から受け取った。

「お電話変わりましたが…」

(………)

「せっかく、何時もご利用頂き、指名されてたジュリも喜んでいたんですが、何分、本人の都合で……」

(…貴方、神崎さん?)

「………」

(の、ようだね…貴方は私を知らないが、私は貴方を良く知ってるよ。大分、繁盛してるみたいね…)

電話越しに聞こえてくるイントネーションは、成る程、若干日本人のそれとは違う。
アジア人特有の訛りが感じられる。

「中村ってえのは、偽名か?」

(いえ、いえ、ちゃんとした本名です。私の妻が日本人ですから…)

「そんな事より、何故あんたが俺の事を知ってる?」

(理由は簡単…敵になるか、味方になるかは判りませんが、いずれにしても、ライバルの情報はきちんと把握しときませんとね…)
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