凶漢−デスペラード
(…中村という名前は、ビジネスの時だけ使ってます。普段は楊…ヤンで結構です。)

「…チャイニーズマフィアか?」

(ははは…神崎さん、小説や映画の観過ぎね…チャイニーズマフィアなんてものは、日本のマスコミが勝手に作り上げたもの…私は単なる実業家です。まあ、大陸から流れて来ている連中の中には、徒党を組んで悪い事ばかりしているのがいますが…)

「その実業家さんが、何で俺みたいな男をライバルと見なすんだ?」

(私も渋谷で夜の商売してます。他にレストランとかもやってますが、私を頼って来る人間達を食べさせるとなると、夜の、それも男相手の商売が一番手っ取り早い……)

最近、渋谷界隈に中国エステが増え、路上での強引な客引き行為で、このところ、何かとトラブルの話しを耳にする。

竜治の店の客層と、中国エステを利用する客層とでは、まずバッティングする事は無いから、竜治からしてみれば、これ迄気に止める必要が無かった。

(私の事を知りたければ、貴方の所の澤村さんからにでも、聞いてみて下さい。)

「そうするよ。ヤンという中国人は女の裸だけ見て自分でシコシコやる奴なのか、てね…」

(…ふふふ…ジュリちゃんの事ですか?貴方の女じゃなければ、私もちゃんと男だという証明はしてみせますよ。)

「…特に用が無ければそろそろ電話を切らして貰いたいんだが…」

(せっかく貴方の店を儲けさせようと思ったのに。)

「今日でVIP会員は無しだ…」

(残念ですね…うちなら、神崎さんを何時でもスペシャル会員としてお迎え致しますよ…)

「有り難いが、マッサージの最中にズドンとやられては敵わないから遠慮しとくよ。」

(だから、それは小説や映画の観過ぎです…)

奴らのえぐさは、寧ろ現実の方が上だ。
小説や映画の世界で描かれる奴らの暴力性は、まだまだ子供騙しだ。

電話越しにも関わらず、奴からは危険な匂いが伝わって来る。
理屈では無い。
勘だ…

ジュリは女の本能でそれを察した。
しかも、本人を目の前にしたのだ。

(神崎さん、今度は田代さんの代わりもするんですね…いいネタが入ったら私にも一口…)

「何の事か知らんが、ネタならあんた達の方が上物を扱ってるだろうに…」

笑い声と同時に電話は切られた…
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