凶漢−デスペラード
エンジェルキスはその後も順調に売り上げを伸ばし、竜治の手元にも以前とは比べものにならない位の金が入って来た。

ジュリは客を取らなくなっていたが、店には毎日のように顔を出し、電話番をしたり、PCで店のHPを管理したりといった仕事を手伝っていた。

暮れも押し迫ったある日、ふらりと澤村がやって来た。
初めて見る男と一緒だった。

「神崎、ちょっと付き合え。」

澤村に連れて行かれたのは、百軒店の中心にある新築のマンションだった。

元は駐車場だった所で、この辺りのマンションでは一番高い方になる。

「この一階に空き店舗があるんだ。坪数は大体五十てとこだ。お前に任せるから、何か考えろ。」

「考えろって…」

「好きにしろって事だ。金の方はこちらの青山さんが必要なだけ回してくれる。」

「宜しく、青山です。」

出された名刺に、(株)青山商事と書かれてあった。

「あっ、勘違いすんなよ。お前に直接貸す訳じゃねえんだ。俺への融資という事だから、間違っても赤を出すんじゃねえぞ。」

「……」

竜治は暫く目の前の建物を眺めていた。

界隈は風俗店の密集地帯だ。
どんな商売が一番この場所にはまるだろうか…

「どうした?もし、お前が返事をしねえんだったら、この話し他所へ持って行くぜ。」

「ちょっとばかり時間を頂く事は出来ませんか?」

「言っとくが、一週間しか時間はくれてやれねえぞ。」

「判りました。」

一週間で答を出せるかどうか自信は無かった。
と言うより、この話しを自分が受けていいもかどうか自体、迷っていた。

澤村と別れ、暫くぶらついた。

五十坪余りのキャパシティ…
場所は風俗街のど真ん中…
資金は心配無い…
考えようによっては、かなり面白い絵が描ける。
しかし、失敗すれば多分一生ただ働きでもしなければいけなくなるだろう。

ふと、ヤンの事を思い出した。

ライバル…奴はそう言ってるが、俺はまだそんな器じゃない。
ならば、このチャンスをものにして、本当のライバルになってやるか…

いつの間にか、センター街を歩いていた。
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