凶漢−デスペラード
「毎朝、久美子から売上日報は見せて貰ってる。お前、デークラの分も余り抜いてねえみたいだが、半分はお前の分なんだぜ……取っとけよ。」

しかし、差し出された札束に、竜治は手を出さなかった。
一瞥をくれただけで、

「エンジェルキスを任された時に、澤村さんから当座の資金だと言われて金を預かりましたが、その分のやつをまだ返してませんでしたから…」

「俺が渡したのは高々百万だぜ。」

「利息です。」

「…これじゃすげえ暴利だな…フフフ…お前、人をたらし込むの上手くなりやがったな…判った、この金は遠慮無く貰うぞ。」

「どうぞ。」

竜治の金に対する無頓着さが、かえっていい印象を与える事になった。

「そう言えば、お前まだあのボロアパートに住んでるらしいじゃねえか。」

「ええ。」

「今、丁度いい物件が回って来てるんだが、よかったらそこに引越さねえか?」

澤村の話しだと、元々の契約者というのが、澤村の下で裏DVDの販売をしていた人間だったらしく、店が潰れて夜逃げをしてしまった。
不動産屋も澤村の息が掛かった所だから、そのまま代わりの人間が住んでも何ら差し支え無いとの事らしい。

「更新だの契約だのなんて面倒な手続きは必要ねえから、今日からでも住める。前家賃と、溜まってる電気代だけ払えばOKだ。」

移り住む事になった新しいマンションは、今居る所からそう離れていない。

引越しの話しをジュリにしたら、大層喜んだ。

早速部屋を二人で見に行ってみると、想像していたよりもいい物件で、ジュリは一目で気に入った。

はしゃぐ姿は、まるで新婚の入居を決めて浮かれる新妻のようだ。

翌日、家具やら身の回り品やらを買いに出掛けた。

デパートの中で嬉しそうに家具を選んでいるジュリの笑顔は、竜治がそれ迄見た事が無い位に明るかった。

一通り家具を選び、配送の手続きをしていた時、竜治のケータイに着信が入った。

カジノからだ。

マネージャーをさせている大野の口から、ヤンの名前が出た。

「…今、ポーカーの方にいるんですが…」

「おとなしく客で来てるんなら別に構わないだろう。」

「それが…一千万近い抜けに…」

大野の声が悲痛な口調に変わっていた。

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