凶漢−デスペラード
「いえ、女性客が五十万程負けた所で…」

「やっぱりグルだな…」

古典的なディーラー潰しのやり方だ。

主役を勝たせる為に、仲間の一人が、レートのアップを求める。
その際、アップを求める役の者は、負け続けている者でなければならない。

「五十万はチップでか?」

「いえ、現金です。」

「顔を出そう…」

竜治がギャラリーを掻き分け、テーブルに座ろうとすると、ヤンは竜治の登場がシナリオ通りとでも言わんばかりに声を掛けて来た。

「主役は後からやって来る…ですか。」

ギャラリーは事情が飲み込めず、早く勝負を再開しないかと気を揉んでいる。

「遊びに来て下さるなら、一言言って頂ければ、勝負の最初からお付き合いしましたのに。」

「神崎さんもいろいろお忙しいかと思いましてね…」

「いずれにしても、随分と手の込んだ事をされるものだ。」

「まあ、お遊びはここ迄に致しますよ。」

「勝負は、このままポーカーで構いませんか?」

「神崎さんが宜しければ…」

ヤンが目配せをして、他の三人を下がらせようとした。

「ヤンさん、気遣いなく。そちらのお客様も一緒に楽しみましょう。ただ、ディーラーはチェンジさせて頂きますよ。」

「どうぞ。」

負けが続いてる者に、これ以上ツキが戻る訳が無い。
大野が誰をディーラーに、と聞いて来た。

「まだこのテーブルについてない者なら誰でも構わない。」

新しいディーラーが席に着き、封の切られていないカードを取り出した。

「大野、うちにある新品のカードを全部用意しろ。足りなければ、ハンズに行って買って来るんだ。」

竜治は、一勝負毎にカードを新しいものにする事にした。

「本場、ベガスのカジノ並ですな。」

「レートの方も変えませんか?現時点での為替レートでの勝負…1ドル120円、アンティは100ドルから。いかがですか?」

「私は構いませんが、果たしてこちらのお店にそれだけの支払い能力があるかどうか、疑わしいものです。」

「そこ迄言われるなら、今迄の分を一旦精算いたしましょうか?一千万もの金貨や延べ板はかなり重くなりますよ。」

竜治の挑発的な言葉をさらりと受け流し、ヤンは、

「では、始めますか。」

と言った。

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