凶漢−デスペラード
竜治は明らかなブラフをここ迄一度も使っていない。

ラストのオープン迄行く場合は、必ずツーペア以上の役がある時だけだ。
それに、レイズアップもやたらとしない。
手役が決まってからだ。

ヤンも既にそういう竜治の癖を読んでいる。

表側にいいカードが配られた。
伏せた二枚とは、余り組み合わせ上いい感じではないが、寧ろヤンを罠に落とし込むにはいいかも知れない。

一枚目から、竜治は思い切りレイズして来た。

ルール上、卓上のチップ総額の倍迄が上限になっている。
アンティ100ドルが順番に張られて行き、400ドル迄になって、次の者がレイズしようとする場合、ここ迄コールされて来た100ドルプラス卓上の400ドル、計500ドルの倍、1000ドルが上限になる。
その前に100ドルでコールしていた人間は、1000ドルから、その前にコールした金額100ドルを差し引いた900ドルを支払わないと、次のカードを引けない。
一旦コールした者は、レイズは出来ないから、新しい掛け金に従うしかない。
若しくはゲームを下りるかだ。

竜治のレイズアップは、誰が見ても首を傾げたくなるような金額だ。

ブラフを匂わせるレイズ……

自分の手役と、他の者の手役とを予想し、自分よりも強い役になりそうな者を早めに潰す為に、最初からフルベットをかます。

最後迄付いて来れないようにする為に、レイズする訳だ。

自分に手役が入っていない時でも、これなら勝てる。
但し、この場合、余り利益は無い。

一番美味しいのは、相手もそこそこ手役が入っている時だ。

こういう場合、途中、わざとレイズの金額を付いて来れそうな額にする。
ダウンさせず、最後の最後でガツンとやった方が利幅は大きい。

竜治は、相手を蹴落とすレイズを連続でし始めた。

二度三度続くと、さすがにヤンもその手口に気付く。
弱いワンペアの手役で最後迄勝負しに行き、竜治のブラフが負ける。

罠の第一段階が出来上がった。

次に仕掛けるのは、手役が入っていても、最後のコールオープンの際に、カードを見せず、負けたふりをする


「神崎さん、今日は余りついてないようですから、この辺で止めにしますか?」

竜治はニヤリと笑い、無言で首を横に振った。

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