凶漢−デスペラード
田代のムショ仲間だと判ると、扱いが変わった。
しかも、八年満期で務め上げて来たというのが、妙な箔になった。
更に、罪命が殺人だから、その箔は金箔になったみたいなものだ。
事務所に居合わせた澤村という幹部が、うちで拾ってやれ、と一言言ったので、結果その日から田代の下で仕事をする事になった。
そして今、十ヶ月が経った。
何時もの喫茶店に入ると、田代は肥太った身体を狭いボックス席の中で窮屈そうに座っていた。
竜治は、立ったまま背広の胸ポケットから封筒を出し、田代に渡した。
「ほれ…」
田代は、封筒の中から一万円札を二枚ばかり抜くと、竜治に差し出した。
「気持ち、イロ付けといたから。」
「……。」
無言で金を受け取る竜治を見ながら、田代は露骨に嫌な顔をした。
「ほんと、愛想ねえ野郎だなぁ……ま、いいや、又電話すっから、今日はもういい。」
千円札だけしか残っていなかった財布の中が、一応財布らしく金が収まった。
この後、特にやる事は無い。
電話で、田代の仕事や、組の仕事を手伝えと、突然言われない限りは、自分の自由だ。
だが、大概、さほどでも無い急用を命じられる。
完全な下っ端扱いだ。
前科者、宿無し、ムショ帰り、人殺し……
背負ったものに、偶然刑務所で知り合った人間が絡み、今の俺を縛っている……
竜治の心の中には、本人も知らない、重く鬱積したものが眠っている。
最近、そういうモヤモヤしたものが、自分の身体の中にあるという意識は、微かに持ち始めた。
だが、その正体や、それがどういう力を出すものなのかは、この時点の竜治には知る由も無い。
アパートに戻って、ここの所の睡眠不足を少しでも解消しようかと思ったが、ジュリが居る事を思い出した。
センター街の奥にあるサウナで休むか……
そう考えて、足を向けた時、ケータイが鳴った。
田代からだ。
(澤村さんがお前さんに用事だとよ。)
「はあ……」
(気のねえ返事してんじゃねえよ。あの人のマンション知ってるよな?)
「ええ。」
確か、道玄坂上の12階建てのマンションだったはずだ。
一度だけ、車の運転を代わって送った事があった。
(急いだ方がいいぜ。あの人は特別時間にうるさいからな。)
澤村敬……親栄会次期会長候補。
竜治の全身に緊張感が走った。
しかも、八年満期で務め上げて来たというのが、妙な箔になった。
更に、罪命が殺人だから、その箔は金箔になったみたいなものだ。
事務所に居合わせた澤村という幹部が、うちで拾ってやれ、と一言言ったので、結果その日から田代の下で仕事をする事になった。
そして今、十ヶ月が経った。
何時もの喫茶店に入ると、田代は肥太った身体を狭いボックス席の中で窮屈そうに座っていた。
竜治は、立ったまま背広の胸ポケットから封筒を出し、田代に渡した。
「ほれ…」
田代は、封筒の中から一万円札を二枚ばかり抜くと、竜治に差し出した。
「気持ち、イロ付けといたから。」
「……。」
無言で金を受け取る竜治を見ながら、田代は露骨に嫌な顔をした。
「ほんと、愛想ねえ野郎だなぁ……ま、いいや、又電話すっから、今日はもういい。」
千円札だけしか残っていなかった財布の中が、一応財布らしく金が収まった。
この後、特にやる事は無い。
電話で、田代の仕事や、組の仕事を手伝えと、突然言われない限りは、自分の自由だ。
だが、大概、さほどでも無い急用を命じられる。
完全な下っ端扱いだ。
前科者、宿無し、ムショ帰り、人殺し……
背負ったものに、偶然刑務所で知り合った人間が絡み、今の俺を縛っている……
竜治の心の中には、本人も知らない、重く鬱積したものが眠っている。
最近、そういうモヤモヤしたものが、自分の身体の中にあるという意識は、微かに持ち始めた。
だが、その正体や、それがどういう力を出すものなのかは、この時点の竜治には知る由も無い。
アパートに戻って、ここの所の睡眠不足を少しでも解消しようかと思ったが、ジュリが居る事を思い出した。
センター街の奥にあるサウナで休むか……
そう考えて、足を向けた時、ケータイが鳴った。
田代からだ。
(澤村さんがお前さんに用事だとよ。)
「はあ……」
(気のねえ返事してんじゃねえよ。あの人のマンション知ってるよな?)
「ええ。」
確か、道玄坂上の12階建てのマンションだったはずだ。
一度だけ、車の運転を代わって送った事があった。
(急いだ方がいいぜ。あの人は特別時間にうるさいからな。)
澤村敬……親栄会次期会長候補。
竜治の全身に緊張感が走った。