凶漢−ﾃﾞｽﾍﾟﾗｰﾄﾞ

卓上には、既に15万ドル余りのチップが積まれている。

恐らく、ヤンはこの勝負で決着をつけようとしているのだろう。

竜治にしても、最初に配られたカードに関する限り、そのつもりでいた。

が、その後のカードが余り良くない。

せめて、ブラフをかませられるだけのカードが表に出ていれば……

ラストシュートを待つ間、竜治は負けを覚悟していた。

伏せたまま七枚目が配られた。

表四枚、裏三枚。

この七枚で手役を組合せる。

打ち出しの7ペアを持っている女が、チェックをした。

チェック…賭け金を入れず、言わば他の者に従うという意味と、賭けられる金額によってはダウンするという
意味を持つ。

勿論、わざと相手を油断させ、多額のチップを相手に賭けさせるという高等テクニックとも考えられる。

6ペアのヤン。

ラストカードをじっくり見た後、おもむろに10万ドルのチップを卓中央に押し出した。

ディーラー…彼女は泣き出さんばかりの表情をしながら、竜治に視線を送る。

最後迄勝負について行けとは指示してあるが、金額が金額だ。

竜治は、シュートされたラストカードをまだめくっていない。

スペードが来ればフラッシュ…

ただのＫが来ればストレート…
スペードのＫならば……

それは、ポーカーの手役上、何万、何千万分の一の確率でしか現れない手役…

ヤンの表情は終始落ち着き払っている。

完璧に竜治達の手を見下しているかのようだ。

腹を括った……

彼女にそっと微笑む。

10万ドル、コール。

竜治は、そのままカードをめくらず、10万の上に、更に10万を乗せた。

隣の女には、手持ちのチップが残っていない。

悔しがる素振りを見せながら、表カードを裏返しにした。

ダウン……

敵はヤンのみ…

ヤンの手元には、まだ30万近いチップがある。

左手に三枚のカードを持ち、右手で手元のチップを引っ切り無しに弄っている。

竜治がラストカードをめくろうとしない事に、多少の不安を感じているのだろうか。