凶漢−デスペラード
10万のレイズに更に10万。

ディーラーの彼女がゲームを続けるには、竜治のレイズ分10万と、ヤンの再度のレイズ分10万、計20万ドルをコールしなければならない。

彼女は、嫌々をするようにして、金色の10万ドルチップ二枚を出した。

竜治の手元にはもう10万ドルなど無い。

「追加で30万を出してくれ。」

固唾を飲んで見守っていたギャラリーからどよめきが起こった。

「神崎さん、これだけのチップが意味するところ、きちんと判ってらっしゃるんですね?」

ヤンの言葉を無視し、

「タップユー…」

と言った。

タップユー…相手の所持するチップと同額を賭けますよという意味…

タップ…降参を促すといった意味もある。

竜治が追加したチップは30万。

ヤンのレイズ分と残り手持ちと同額を賭けても、10万近いチップが残っている。

普通なら、追加チップをすれば、その時点で全額を賭けても良さそうだ。

竜治には思惑があった。

自分の手役が、六枚目迄の段階でブタ…役無しで、ヤンの表カードの6のワンペアに対して、コールが出来ない。

コール=その手役より上だよという意味からすれば、竜治はレイズアップするしか手立てが無い。

薄々その辺は察している。

めくっていないラストカードが、他の六枚のうちのどれかと重なれば、ワンペアになる。

ヤンの手が、表カードのワンペアのみで終わってくれていれば、竜治の手にある六枚は、全て6より上の数字だから勝つ事が出来る。

だが、今迄の流れからすれば、そんなワンペア勝負といったような、低次元の勝負にはならないだろう。

最低でもストレートになっていて欲しい。

竜治は、生まれて初めて、神に祈りたくなるような思いになった。

奴は絶対、更にレイズしてくる筈だ…

ただ、奴自身がどれだけの現金を持つて来ているか、それが読み切れていない不安もあった。

多分、二、三百万から、どんなに多くとも五百万円位…

チップに交換すれば、2万ドルから4、5万ドル分位ではなかろうか。

竜治の見積もりは、ほぼ当たっていた。
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