凶漢−デスペラード
何時もの事だが、久美子と二人だけになると、どうも間が持てなくなる。

何か話し掛けた方が良いのだろうが、適当な言葉が出て来ない。

ただ渋くて酸っぱく感じるだけの液体を一息に流し込んだ。

久美子がグラスに二杯目を注ぐ。

久美子の視線を感じた。

煙草を取り出し、火を点けようとしたら、久美子の両手がマッチの火に包まれて、目の前に延びて来た。

自然と向き合う形になった。

煙草を持つ竜治の指が、心無しか震えた。

マッチの火も揺れている。

見ると、久美子の手も微かに震えていた。

眼と眼が合った瞬間、久美子が笑った。

「二人共、緊張しちゃって、まるで初デートをしている中学生みたいよ。」

その言葉に竜治も思わず笑った。

「それじゃ、酒飲んで、煙草吸って、不良中学生のデートですね。」

「ちょっと、蕩の立ったね……」

少しばかり緊張が解れた。

「デートっていえば、竜治さんの彼女って、随分可愛い方よね……」

突然の思いがけない言葉に、竜治は戸惑い、言葉を返せ無かった。

「一昨日、マークシティに二人仲良く入って行くのを見ちゃった…恋人同士って言うより、何だかすごく仲の良い兄妹みたいな感じだったけど……彼女の方が竜治さんにくびったけっていう感じかしら?」

「彼女って言えるかどうか…確かに一緒に住んではいますけど…気が付いたら転がり込んで来て……」

「お店の子なの?」

「今は出てません…」

「そう…ちゃんと彼女の事見つめて上げてるの?」

「見つめる?ですか?」

「私は夜の世界でも水商売しか知らないから、余り偉そうには言えないけど、ああいう仕事をしてる子達って、基本的に人の愛情に飢えてると思うの。その娘にとって、一番大事な人がきちんと見つめて上げる事によって、いろんな苦しさや辛さに耐えられる…風俗で働く娘達に限らないけどね。」

「……」

「彼女達って、器用に生きて行けない娘達じゃないかな…中には世間から見捨てられて、仕方無く入って来る娘も居るわけだし、そこの世界でしか生きられない娘も居る…昔は、苦界と呼ばれてた位だから、誰もが好き好んで入って来た訳じゃないのよ。苦界に身を投じる女の気持ちに、今も昔も無いわ。」

久美子は話しを続けた……
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