凶漢−デスペラード
「取引が終わったら渋谷に戻って来てくれ。高速は絶対に使うな。いいな。シーマは宮下公園の駐車場に乗り捨ててくれれば、後はこっちで始末する。車の運転は大丈夫か?」

「最近はハンドルを握ってませんけど、大丈夫だと思います。」

「渋谷に戻って来る時は、後ろに気を付けて帰って来い。時間を掛ける分には、幾ら掛けてもいい。脇道から脇道、尾行に用心してくれ。」

竜治は、茶色の包みを手に取り、

「でも、こんな物を持ったままサツに停められたらどうします?」

「そこ迄の面倒は見れない。自分で考えてくれ。」

河田は都内のロードマップを放り投げ、

「このマンションの場所は赤丸で記してある。落ち合う場所はバツ印だ。車にカーナビは付いているが、そんなもんに頼るより、頭に地理を叩き込んだ方がいい。十二時迄はこの部屋から出るな。それと、自分のケータイは切っとけ。替わりにこれを渡しておく。」

と言って、別なケータイを渡した。

「何か連絡したかったらこれを使え。これからもこの部屋を使う事があると思うが、此処に来る時は、さっきのように用心してくれ。少しでも様子が変だと思ったら近寄るな。此処を出る時も同様だ。用心する相手はサツや麻取だけとは限らない。」

「もし、取引相手が変な行動を取ろうとしたり、約束通りの金額を持って来てなかったらどうします?」

「その為にこいつを預けるんだ。あんたならやれるさ。使い方はそう難しく無い。レンコン式だから、ただ引き金を引けばいい。」

その後、二、三の質問のやり取りをし、河田は帰った。

竜治は、まるで自分が弾丸避けにされてる感じがした。

ソファに横になり、ロードマップを広げた。

頭の中で何度も走るルートをシュミレーションした。

地図を見ると、直線距離だと10キロ程しか無い。

20分も走れば現場に着く。

竜治は、十一時にマンションを出る事にした。

大量のシャブと、チャカを持ったまま長い時間、夜の道を走るのは余り気持ちのいいものでは無いが、河田の言葉を思い出し、用心を重ねるに越した事は無いと思った。

茶色の油紙に包まれた拳銃は、銃身が短いタイプの物だった。

改める迄も無く、弾倉には実弾が込められていた。
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