凶漢−デスペラード
もっと重いかと思ったが、以外とそうでもなかった。

冷ややかに黒光りする拳銃をズボンのベルトに挟んだ。

覚醒剤は包み直して黒のバックに入れた。

竜治は、非常口を利用して駐車場に下りた。

グレーのシーマは見つかったが、直ぐには近付かず、一旦通り過ぎて、暫く辺りの様子を伺った。

特に異常は感じられない。

シーマに乗り込み、マンションの周囲を一回りし、自分の運転感覚が鈍っていない事を確かめた。

尾行者の有無を確認しながらの運転は、気が休まらない。

取引場所に着いたのは、指定された時間の20分ばかり前だった。

相手はまだ来ていない。

土手の上には、竜治の車だけだ。

念には念を入れて、周辺を一回りしてみた。

これといって怪し気な者は見当たらない。

フロントガラスにぽつぽつと水滴が当たり始めた。

雨だ。

時計の針は12時丁度を指した。

相手は見えない。

1分、2分……10分過ぎて誰も来なかったら、この場を離れよう…そう思った矢先、前方から一台の車が来た。

10メートルばかり離れて、その車は止まった。

ライトはそのままだ。

何の合図も無い。

違うのか?

と、ライトが点滅した。

1回、2回…3回点滅したのを確認してから、竜治も同じようにライトを点滅させた。

相手の車から、男が二人降りて来た。

エンジンを掛けたまま、竜治も車から降りた。

一人は車の側から離れず、もう一人がゆっくりとこっちに歩き出し、5メートル程先の所で立ち止まった。

男の手には、紙袋があった。

竜治は、覚醒剤の入ったバックを運転席に置いたまま、男に近付いた。

「品物は?」

「金を確認してからだ。」

「おい、おい、初めて会う人間に、はいそうですかって、これだけの大金を渡せると思ってんのか?」

「それはこっちも同じだ。うちとは初めての取引なんだ、きちんと現金が確認出来る迄は、品物を渡す訳にはいかない。」

相手の男は、渋々、手に持っていた紙袋を差し出そうとした。

竜治は、全神経を集中させて相手の様子を見た。

相手の左腰辺りが不自然に膨らんでいる。

何か持っている。

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