凶漢−デスペラード
竜治は上着のボタンを外し、ベルトに挟んである拳銃が相手から見えるようにした。

拳銃が相手の目に止まった。

差し出しかけた紙袋が途中で止まった。

竜治はニコッと笑い、

「心配しなくても撃ちゃしないよ。尤も、あんたが変な真似をしなければの話しだけどね。」

そう言って、左手で相手の手から紙袋を取った。

右手は何時でも拳銃が抜けるよう、グリップに掛けている。

後ずさるようにしてシーマ迄戻り、ボンネットの上に紙袋を置き、中の金を確認した。

銀行の帯封がしてある束が10個あった。

その一つを手に取り、間違い無く一万円札かどうかを見た。

竜治は頷き、運転席から黒のバックを取り、相手の男に投げた。

足元に投げられたバックを、男はゆっくりと腰を落とし、視線だけは竜治から逸らさず手にした。

バックの中から包みを取り出し、そのうちの一袋を何回も確認した上で少し破り、小指を中に入れた。

「物の確認なら自分達のヤサに戻ってからにしてくれないか?こんな所をお巡りにでも見られたら、アウトだぜ。」

男は竜治の言葉を無視し、僅かに小指に付着した白い粉を口に含んだ。

漸く納得した男は包みをバックに戻し、竜治と同様、後ずさりしながら自分の車に戻った。

二人の男は素早く車に乗り込み、バックのまま急発進し、まるでカースタントを見るかのように車の向きを180度変えた。

あっという間に車は見えなくなった。

竜治は、自分の背中が汗でべっとりしている事に気付いた。

エアコンが暑苦しく感じた。

窓を全開にし、車を走らせた。

気付かないうちにスピードが上がっていた。

落ち着け、落ち着くんだ……

自分に何度も言い聞かせた。

暫く走っては道路脇に車を止め、尾行車があるかどうか確認した。

途中、気持ちを落ち着かせる為に、かなり煙草を吸った。

明治通りに入った時、100メートル位前方で、ライトがぐるぐる回されていた。

一瞬、検問かと緊張したが、何の事はない、道路工事だった。

特に何事も無く渋谷に着いた。

宮下公園の下にある駐車場にシーマを止め、河田から預かったケータイで連絡を入れた。

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