凶漢−デスペラード
ホテル東急インへ来てくれと言われた。

本名は名乗らず、ナカニシという者だが、711号室に泊まっているオオタを呼び出してくれと言った。

東急インは、宮下公園の直ぐ横にある。

地下一階のフロントに下りた。

男が二人、フロントに居た。

深夜の来訪者にも関わらず、ホテルの男達は何の不信感も抱かず、ホテルマン特有の笑顔と物腰の柔らかさで竜治を迎えた。

河田から言われた通りに伝えると、一人の男が内線電話で711号室に確認を取った。

その男がもう一人の男に頷くと、

「直接お部屋の方へお越し下さいとの事ですので、そちらのエレベーターで7階迄ご利用下さい。」

と言った。

部屋に行くと、河田と澤村が居た。

現金の入った紙袋と、ズボンのベルトに挟んだままになっていた拳銃を河田に差し出した。

「これは使わずに済んだようだな。」

「はい、見せるだけは見せましたけど…」

河田と澤村が顔を見合わせ、薄ら笑いを浮かべた。

「初めての客にこんなの見せたら、次はねえな。」

笑いながら澤村が言った。

「いや、大丈夫でしょう。あれだけの品物を手にしたら、又直ぐ用意してくれって言って来ると思いますよ。寧ろ、最初にある程度こっちでペースを握れた分、次回からもっとやりやすくなると思います。神崎は思ってた以上にいい仕事をしてくれたかも知れません。」

澤村は、紙袋の中から無造作に100万の束を一つ取り出し、竜治に差し出した。

「初回限りの御祝儀だ。取っとけ。」

竜治は、特に何の感動も無く、100万の金をポケットにしまった。

「神崎、今日渡したケータイはそのまま持ってろ。こっちの方の仕事では必ずこれを使え。」

「こんな取引ばかりなんですか?」

「そうそう番度ってわけじゃねえけどな。品物を別の場所から運んで貰う事もあるから、そのつもりでいてくれ。」

ホテルを出た時には、既に深夜も三時を過ぎていた。

自分のケータイの電源をONにすると、ジュリからの着信がズラリと並び、最後にエンジェルキスからの履歴が残っていた。
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