凶漢−デスペラード
ジュリの遺体が見つかったのは、ついこの前迄住んでいた円山町のアパートの階段脇でだった。

カッターナイフで右手首を切っていた。

ジュリのケータイからエンジェルキスが判り、上原に連絡が入ったらしい。

竜治は、何故自分の方に連絡が入らなかったのだろうと不審に思った。

後で警察署でジュリの所持品を受け取り、ケータイを確認した時に、その理由が判った。

竜治の番号や発着信の履歴が全て消されていたのだ。

司法解剖が終わり、遺体の引き取りが出来たのは、夕方の5時を少し過ぎた頃だった。

どうやって調べたのか、ジュリの母親に連絡がついたらしく、引き取りの時には病院の霊安室に来ていた。

余り似ていない母親だなと竜治は思った。

葬式は出来ないからと母親が言うので、そのまま火葬場に行き、骨にした。

竜治がジュリの母親と言葉を交わしたのは、互いに初対面の挨拶をした時だけで、別れる時も、一言も話さなかった。

竜治は、ジュリの所持品の中から、マンションの鍵だけを受け取り、残りを母親に渡した。

ジュリの死は、一応事件性の無い自殺と処理されたが、それでも警察での事情聴取ではしつこい程にいろいろと聞かれた。

竜治は、この時になって初めて、ジュリが過去に三回も自殺未遂をしてると知らされ、精神科にもかかっていた事に少なからずショックを受けた。

「あの子…今回はよっぽどなんかあったんだろうな…」

「………。」

「あんたの店で売春やらされてたのが、堪えたんじゃないの?ええ、神崎さん?」

「………。」

「前の三回は左手首だったけど、今回は右手首……何故だか判るか?これは、あくまでも憶測だけど、彼女、左利きなんだってな…つまり、本気だったて事よ…」

「………。」

「使ったカッターナイフなんだけど、工業用のでかいやつなんだ。そのナイフの刄がすっぽり傷口に隠れる位、深く切ってんだ。動脈から神経からすっぱり…もう少しで手首がもげるとこだ。自殺であそこ迄切る奴はそう居るもんじゃねえ…まして女の子だ…ま、今回は自殺て事に落ち着いたけど、店の件は追い追い生安が顔出すと思うから、よぉく首洗っときな…」

「………。」

刑事の言葉が、ずっと耳の奥に残った。

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