凶漢−デスペラード
久美子にそう聞かれて、自分なりに思い起こそうとしたが、何も出て来なかった。

ふと、ジュリと一緒の時によく耳にした曲を思い出した。

「そうだ、モー娘。……」

思わず言葉に出た。

「えっ?モー娘。?」

二人共、顔を見合わせて笑った。

久美子は腹を抱える仕草をした。

「竜治さんがモー娘。だなんて、もう可笑しくて…ごめんなさい、笑い過ぎよね。」

「ジュリが…」

「えっ?」

「…ジュリがよくCDで聴いてて……」

スゥーと何かが引けて行くような感じがした。

「…ジュリちゃん、幾つだったの?」

「十七…でした…」

「若すぎたね……」

「あの日、奴、俺に何も言わずに店に出たんです…電話掛けた時、電源切っていて…留守電に伝言入れた時には、もう……奴、中学の時に三回も手首切ってたらしいんです…そんな事、一言も話してくれなかった…俺も、そんな傷、気が付きもしなかった…以前、久美子さんは、女はシンデレラを夢見てるって話してくれましたよね…俺は、ジュリの王子様にはなれなかった…というよりも、ほんとは、俺はジュリの王子ではなかったのかも知れない……」

「相応しいとか、相応しく無いとか…そんな事、男が決める事じゃないわ。」

「じゃあ、女の方が、ですか?」

「男が、とか、女の方がという事じゃなくて、互いの心…引き合う気持ち…そう言った方がいいかな…」

「俺は、奴の事をちゃんと見つめてやれなかった…」

久美子がそっと竜治の手に自分の手を重ねた。

「恋愛も、人生も、100点満点なんてそうそうあるものじゃないのよ。月並みな言い方しか出来ないけど、ジュリちゃんの死を余り自分に重く押し付けないで。」

「男って、自分勝手な生き物ですよね……」

「どうして?」

「好きとか、愛してるとかに関係無く、ただやりたいっていうだけで女の身体を抱く…理由も無くやりたいって……」

「それが、男に与えられた性ってやつなんじゃないかな…女は、それを受け止めるのが性…」

「俺…ジュリをそんなふうに一度だけ抱いてしまったんです。多分、ジュリじゃなくても良かったんです。寧ろ、ジュリにそうしちゃいけなかったんだ……」

久美子の手が肩に延び、竜治を抱き抱えた。
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