ちょっと怪談してみたい
 ひとかどの人物らしく、僧侶が丁寧に尋ねると、男は自らの首をぐるりとネクタイで巻いて、


 ケタケタと笑って自分の首を絞め始めた。


 苦しげに唾液をふりまき、どんな表情をしているのか、わからなかった。


「何をなさるか、あなたは」


 止めに入ったところで、男は副住職の首をも、ぐいぐいと万力のような力で締めあげ、振り払おうとすると、姿を消してしまった。


 夜闇の中、汚い背広だけが風に浮いていた。


 寺に戻った副住職が、住職に言うと、


「それはどうやら鬼にとりつかれてしまった方なのではあるまいか」


 懸念される。


 それからというもの。


 住職は亡くなるその日まで、逃げた鬼の冥福を祈念し続けたという……





「その住職というのがオレのじいさまでな」


 鏑木正則(かぶらぎまさのり)二十二歳は、ひょうひょうと言った。


 映研部の全員の反応は一様だった。


「うそつけ――!」


 彼の相棒は、こっそり声をひそめるようにつぶやいた。


 望月定(もちづきさだむ)二十一歳。


「ねえ、先輩。今日のところは実話じゃないほうが良かったのでは?」


 気の毒と言えばきのどくな、霊媒体質の鏑木だった。


―第一話、おわり―


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