カベの向こうの女の子
俺は春菜のことを聞こうと慌てて口を開けたが、さきに春菜が喋った



「あー、うんうん。あたしもそうかな」



そう言われて、春菜にはしっくりくるそれが、俺にはないことに気づく




俺はロングヘアーのことに言われたことを思い出した


『どのみち春菜はやめたほうがいいと思う』



はっきりと覚えてる、ロングヘアーの歪んだ顔が



なんであんなこと言うんだろう



今思えば神八との噂のせいかもしれない



それとももっと春菜の個人的な理由なのかも



でも、俺だってもうあいつの言葉に左右されるつもりはない



「春菜はさ、好きな人とかいないの?」


春菜はまばたきをしてこちらを見た



春菜と目が合うと、急に耳を塞ぎたくなってきた



いるって言われたら、絶対、狼狽する確信がある



「…いないよ」



俺はまたホッとした



深い深い安堵だった



なんだ、完全に春菜はフリーだ



心の中のもやもやが一気に晴れていく



早く確かめれば良かった…


「波くんは、いるの?」





「俺!?…俺は、」



俺は春菜の問いに面を喰らった



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