カベの向こうの女の子
本当のこと
過去
季節は春になった
短い短い春だ
ついこの前、桜の開花宣言がされた
俺の地元でも桜はちょうど今、見頃だ
春以外の季節の時は桜の木だったなんて知らなかったくらい、意識していなかった木々がここぞとばかりに主役に躍り出る
ニュースの一部では、花見をするサラリーマンが陽気にインタビューに答えていた
もう冬の寒さなんて、すっかり忘れるくらい、ぽかぽかと暖かい
俺は春が好きだった
だからいつも春が来ると、嬉しくもあり切なくもなる
だって春はあまりにも短い
ずっと春だったらいいのに、そう思う
「あたしは、夏が好き!」
そう言う春菜に、俺は顔をしかめた
「春がつく名前なのに?」
「よく言われる。春も好きだけどね」
「なんか意外だな。でもなんで夏なんだよ」
春菜はそう聞かれて、何故だか勿体ぶったようだった
「夏っていいじゃない。夏休みもあるし、日がのびてなんか得した気分になるし!」
「なるほどね」