カベの向こうの女の子
久しぶりにケーキ屋なんか入ったなと思って、俺は辺りを見回した
店内はわりと落ち着いた雰囲気で、茶色とかベージュとかの色が多い
壁にはこの店の商品のチラシが貼られていた
春だからその季節に沿って、桜系のケーキを期間限定で出しているらしい
チラシはそういった内容だった
それから俺は隣でガラスケースの中を覗いている客をチラリと見た
若い男だった
一瞥してすぐに視線を移したが、思わずもう一度確認した
白い肌に少し女っぽい顔つきで、幼く見える
「千秋…?」
俺の声に気がついて、そいつはこちらを見た
大きめな目がさらに大きく見開いていた
「あ!」
そのやり取りを見て春菜が、俺の隣から様子を覗きこんだ
俺は千秋から春菜に視線を移した
すると春菜もさっきの千秋と同じような表情を浮かべている
千秋をまじまじと見ながら、春菜は言った
「あれ…っ、お兄ちゃん!?」
俺は耳を疑った
「え、はる…な、お兄ちゃんって…?」
今度は千秋がさらに驚愕したような顔をして、軽く叫んだ
「春菜…!?」
少しの間、それぞれ固まって、誰も口を開かなかった
カウンターの向こうで店員が、不思議そうにこっちを見ているのがわかる