カベの向こうの女の子
「春菜、苺好きなんだ」
俺が言うと春菜はニコッと笑った
あんまり素直な笑顔だから、腹の上部がくすぐったくなった
「うん、好きー。誕生日の時はいつもお兄ちゃんが苺くれるの」
俺は意外に思って千秋を見た
俺の斜め前にいる千秋は、すでにケーキを食べ始めていた
千秋は見かけからも性格からも、末っ子っぽいと思ってたけど、ちゃんと兄ちゃんやってんだなぁとちょっと見直した
俺はケーキを一口分フォークで切って、口に放った
柔らかいスポンジが口で溶けて、甘さがふわりと広がる
「あ、茶、入れて。春菜」
千秋がそう指図すると、春菜はムッとした顔をする
「お兄ちゃんがやってよ。あたしの誕生日なんだから」
千秋は口をへの字に曲げてそう言う春菜の顔を見ずに、ひらりと手を下から上へ振った
「いいから」
すると春菜は不機嫌そうなまま、立ち上がり仕方なく台所に行く
俺は新鮮な気持ちでそれを見つめる
兄ちゃんと妹ってこんな感じ…
俺は優を思い出した
やっぱり上の兄弟は下の兄弟を、パシりにするんだな