カベの向こうの女の子
千秋が意味深に俺を見つめるから、俺は顔をしかめる
「なんだよ」
千秋は少し前のめりになって、言った
「春菜の前では、嘘だけはつかないほうがいいです」
「なんで?」
亮太が即座に質問を投げかける
「嫌いなんス。とにかく嘘が」
千秋は何か呪文でもかけるみたいに、ゆっくり低い声で言った
「…嘘」
俺は無意識に呟いていた
春菜に、嘘は言った
自分を良く見せたいがための嘘を
「軽い嘘も?」
「そうっス。まぁ嘘の度合いにもよりますが…。本当にヤバい時は口きいてくれなくなるんで」
「春菜が?」
千秋はコクリと頷く
正直想像できないな、と思った
春菜が口をきいてくれなくなるのが、想像できなかった
「でも、なんでそんなに嘘がダメなんだ?」