カベの向こうの女の子
彼女がいる経緯
初めて彼女を見たときのことは
今でも不思議なくらい鮮明に覚えてる
俺は仕事に行くときバイクで地元の高校の前を通る
公立高校の進学校だ
制服は男子が学ランで女子は紺色のとくに特徴もない地味なものだった
その日の朝は髪の毛の寝癖がいつもよりマシで、寝癖を直す時間が余ったんだ
いつもの俺の寝癖は本当にひどくてとにかくハネる
左右対称ならまだしも、見事に左右非対称にはねりまくる
だからその日は機嫌よく、ちょっと早めに家から出た
そのとき冬に近づいていて、景色には色がどんどんなくなっていってた
バイクで走ってるから、冷たい風が容赦なく肌に突き刺さって痛かった気がする
仕事に行く途中、さっきの高校の前をいつも通ってた
高校の近くの道には生徒がちらほらいて
いつもはそんなところに目をやらないのに
たまたま女子高生の2人が目に止まったんだ
道路側を歩いてた女の子はたしか、ロングヘアーだった
俺が誘拐したのは逆側の髪の短いほうだった
その子は朝っぱらなのに元気いっぱいの笑顔で
風にサラサラと綺麗に靡かれるのは、ロングヘアーのほうなのに
俺はかまぼこみたいな目をした奥のほうしか見えなかったんだ
でも俺は言った通り
人よりちょっと馬鹿で
彼女からどうしても目が離せない理由が、惹かれてたからなんて気づかなかったんだ