カベの向こうの女の子

好転




彼女がもう少しそばにいてくれると実感した瞬間、腹が異常に減ってきた




腹の虫が尋常じゃないくらい大きな音をだす




どうやら必死こきすぎて、いつもよりエネルギーを使ったらしい




ひき止めるのに集中して腹のことなんて、すっかり忘れていた




彼女はそれに気づいて、俺を上目に遠慮がちに笑った


俺は恥ずかしくなって、誤魔化すように早口になる



「何か食う?春菜も腹減っただろ」



「あれ…?名前…」




「ん?」



「名前教えたっけ?」



彼女は顎に人差し指をあてて、首を傾げた



俺はまた慌てた



「ああ!えっと…、鍵渡してくれたときに、もう1人の子が…」



「うんうん、そっか」



春菜はにこりとして納得したみたいだった



俺はとりあえずほっとしたが、理解した



あとほんの数ミリで俺の化けの皮ははがれそうになる



少しでも油断していると、こうして話せなくなる



そう思うと嫌すぎて鳥肌がたった




今は春菜にとったら恩人だが




本当は誘拐犯だ




まさに




雲泥の差である




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