カベの向こうの女の子
ポケットから携帯を取り出すのに、手間取った
手が冷たくなっていることに気づいた
動揺が抜けきれなくて、上手く自分の手すら動かなくなっている
ようやく携帯の画面を見ることができると、着信の相手は吉永愛だった
俺はボタンを押した
『もしもし』
携帯から耳にロングヘアーの声が聞こえた
ようやくやり取り以外の声が聞けた
「もしもし」
俺もそう言う
すると、電話ごしにロングヘアーが怪訝な声をした
『どうしたの?珍しいじゃない。電話出るなんて。まぁいいけど』
俺は黙った
何か答えなくてはいけないのに、気持ちがついていなかった
春菜とのやり取りから本当に時間が止まったみたいに、そのことばかり考えてしまう
今に集中できない
『どうしたの?』
黙ったのを不思議に思って、ロングヘアーがたずねてくる
俺は適当に返事する
「いや、別に」
そう言ったときに思い出した
あの現場を見ていたのは、ロングヘアーだった