カベの向こうの女の子

ばか




春菜といれた時間はとても短かった



多分俺の人生の1割にも満たなかったと思う




だけど短い時間のわりには、やたらと密度が濃くて多分きっと忘れることはない



時々思い出すと、いてもたってもいられないような感覚と自分の情けなさに囚われて、どこか暗くて狭い穴に入りたくなる




諦められないとは感じていた



だって誘拐までした相手だったから



それ以上のものに出会うことはない気がした



だけど無意識に忘れようとしていた



もう傷つきたくないとかそんな理由で




忘れようとしていただけに、春菜の名前を見た瞬間、鳥肌が尋常じゃないくらいに立った



不意打ちだった



駅前にぽつんと落ちていた定期を何気なく拾ってみたら、それが春菜の物だったんだ



何かドッキリかと周りを見渡したけど、ただ普段通りに人が通りすぎていくだけで知り合いはいなかった


俺はピンク色の定期入れに入った定期を見つめて、もう一度確認した




間違いない




藤崎春菜…、年齢もばっちり合ってる、…17歳



最近暑くなってきたとはいえ、夕方は涼しいはずなのに額に汗が流れたのがわかった




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