カベの向こうの女の子
心臓の鼓動が早くなってくる
「春菜の…」
呟いて、ズボンのポケットから携帯を取り出した
液晶画面の春菜の電話番号に電話をかけようとボタンを押しかけて、やめた
今、春菜とは絶交状態なんだ
だからかけたところで、意味はない
どうせ無視されるのがオチだ
でもだからといって、これは春菜に会える最後のチャンスのように思えた
このチャンスを活かすも殺すも自分自身だ
俺は考えを頭に張り巡らした
春菜が定期を落として俺が拾ったことは、偶然だとは思えなかった
これはきっと最後のチャンスだ
俺はなんだか喉が渇いて、唾を飲み込んだ
ふと、思い出した
高校の時、千秋が定期をなくして、千秋の定期が駅に忘れ物として届けられたことの、連絡が学校に来たこと
定期から個人情報がわりだせるってことだ
それなら、当然駅員から春菜に電話することができるはずだ
俺は駅の改札まで行って、駅員に定期を見せた
「これ、落とし物なんですけど、落とした人、今から呼び出せますか?」
俺がそう聞くと駅員は少し怪訝そうに俺を見て、「はぁ、できますけど」と言った