カベの向こうの女の子
スーパーの中に入ると、いくらか暖かい
中途半端なぬるいようなそんな空気が充満している
彼女はかごを持って、俺に言った
「なににしよっか?」
俺は彼女の一言一言を、どこか誰も開けられないとこに、閉じ込めたくなる衝動にかられた
俺は記憶力が悪いから、せっかく春菜が言ってくれたことを忘れちまう気がした
「何食べたい?」
俺が聞くと彼女は即答した
「お鍋!」
俺はうなずいて、とりあえず春菜が持っているかごを自分が持った
彼女が何かを負担するのは嫌だったし、優しくしたかった
こんなに人に優しい自分は多分、初めてだと思う
それから鍋をするために必要なものを買いそろえた
誰かとスーパーで鍋の具を買うのは初めてだった
真剣に商品を見つめる春菜を見るだけで心が満たされた
こんな刺激のない行動なのに、満足するなんて不思議だ
もちろん、会計は俺が済ませた
彼女は「迷惑かけてばっかりだなぁ」なんて言っていた
それをしっかり俺は撤回した
だって春菜には尽くしても尽くしたりない気がするから