カベの向こうの女の子
俺はあんまり自分の名前が好きじゃなかった
大概初めての奴には「女みたいな名前」って言われてきたから
確かに俺もそう思うし、俺以外の男で"なみ"なんて見たことも聞いたこともなかった
だけど
「へぇ!素敵な名前!」
春菜はそう言ってくれた
うわべだけじゃなくて、表情とか声で本当にそう思ってるってわかった
嬉しいとかいうより、素敵なんて言われて、照れくさくてしかたなくなった
「素敵…とか久しぶりに聞いたわ」
「そう?あ、あたしも改めて言うね。藤崎春菜です」
「へぇ、素敵な名前!」
俺は春菜の真似をしてみた
すると春菜は恥ずかしそうに「ちょっとー真似しないでよー」と言って机を叩いた
春菜の行動や仕草はいちいち可愛い
ちょこまかしてて少し大袈裟なんだ
話してるうちに鍋が煮立ったらしく、春菜は鍋の蓋を開けた
鍋をとる手袋みたいなものがないから、タオルを使っていた
開けた瞬間、湯気がむあっと部屋に広がる
「うん、いい感じじゃない?」
「おお、よくわかんないけど」
春菜はお椀に鍋の具を入れ始めた