カベの向こうの女の子
このまま何もなければ、俺は彼女を助けた人だけで終わる




今日、次の約束をすればまだ関係は繋がるのに



俺は気づいて落胆してうつむいた




すると床に置いてある携帯が目に入った



そっか




「でも、携帯番号しってるし」




俺は落胆した素振りはまったく見せず、準備していたように言った



「ああ、やるじゃない」




しれっとして優は言った



俺はちょっと優を負かした気分になった




今日はさんざん俺が負かされてきたから



「でも、慎重にやることね。行動する前に冷静になりなさいよ」




偉そうに説教してきた



「わかってるよ」



「わかってないから言ってんの。私と違って馬鹿だから」




本当にいちいち偉そうな奴だ



馬鹿馬鹿馬鹿って…




一応お前の弟だぞ



確かに優は頭がいい



俺と違って高校も大学も名門を出て、一流企業で働いてる




俺はいい加減、優がうっとうしくなった



「お前もう帰れよ」



「はいはい、わかりました」



優は立ち上がってカバンを肩にかけた



そしてあっさり帰って言った







俺は部屋で1人ため息をついて携帯を握った




さっきまで騒がしかった部屋がしーんと静かだ


自分のため息が大袈裟に耳に聞こえた



俺は携帯の液晶画面に目を落とす



そしてボタンを押した


携帯を耳に当てると電話の呼び出し音が、嫌に頭に響く





「もしもし…春菜?」




携帯の中は、相変わらず春菜の鈴とした高い声が聞こえた












< 43 / 219 >

この作品をシェア

pagetop