カベの向こうの女の子
ふーん…
呼び捨てが嫌いなヤツとかいるんだ
じゃあ俺だって、"波"って呼んでもらえないのか
"荒木くん"止まりか
「俺のことも呼び捨てすんの、嫌?」
「うーん、嫌ではないけど…。それに荒木くんは年上だし」
「なんでいきなり年上気にするんだよ。今さらだろ」
そうだ、今さらだ
いままで散々ため口だったろ
それは俺も許してるわけだけど
「呼び捨てがいいの?」
「いいっつーか、俺はお前のこと呼び捨てだし」
「そっかぁ、じゃあ…。あっ、波くんって呼ぶね!」
ドッキュン…
心臓を打ち抜かれた気がした
俺は思わず胸をおさえた
そしてよろめいた
波くんなんて、くそ恥ずかしい
だけど、くそ嬉しい
小学生のとき以来だ、波くんなんて
「どうしたの?苦しいの?」
胸をおさえてフラフラする俺に春菜は心配してくれた
「いや、だ、大丈夫」
「本当に?休む?」
俺はよろめきながら地面を見つめて、首を横に振った