カベの向こうの女の子
胸の中で春菜は小さく笑って顔を上げた
「ねぇ、なんで急に…」
俺は理性というものを思い出して、腕の力をゆるめた
「ごめん」
春菜は首をかしげて戸惑って、一歩後ろへ下がった
「どうしたの?」
少し苦笑いをしながら春菜は言う
「ん、ありがとう。年賀状…」
「ああ、全然。わざわざ言いたくて来たの?」
春菜の笑顔を見て安心した
それとともに、腹の底が、春菜の彼氏への憎悪で熱くなった
「そう」
本当は何も考えないでここに来た
礼を言いたくて来たのかと言われれば、そうかもしれないしそうじゃないふうにもなれる
ただ会いに来た理由は、会いたかったから
それだけな気がした
でもそんな"会いたかったから会いに来た"なんて歯の浮くようなセリフ、言えなかった
俺の複雑な心境なんて考えもしないで、春菜は俺を見つめた
「あ!まだ直接言ってなかったよね」
「え?」
「明けましておめでとう!」
「ああ…そっか」
俺は春菜の剽軽さに笑った