堕ちていく二人
銀行員の桂司は土曜日の休日だというのに、今朝も素っ気なく家を出て行った。
玲子と桂司はお見合い結婚をし、8年の歳月が過ぎようとしていた。
幼くして両親が離婚をしていた玲子は、人一倍温かい家庭に憧れを持っていた。
4年前に待望の赤ちゃんが産まれた時には、嬉しさのあまり大粒の涙を流して喜びを表した。
そして、桂司と三人で幸せな未来を想像した。
しかし、それは玲子の夢物語に過ぎなかった。
玲子の身体のあちこちには、桂司から受けた無惨な暴力の跡がいくつも残っていた。
新婚当初、夫の桂司は無口だったがそれなりに優しかった。
玲子の誕生日にはシルバーのネックレスをプレゼントしてくれたし、1年目の結婚記念日には有給休暇を取り、ダイビングが好きな玲子のために、タイのプ−ケットへ連れて行ってくれたこともあった。
何処までも広がる青い海に潜りながら、玲子は熱帯魚と戯れながら幸せを実感していた。