堕ちていく二人
鬱積


季節は春を向かえようとしていた。

桜の壷が膨らみ、ウグイスの囀りが春の到来を実感させた。

琵琶湖の水も柔らかな陽射しを受け春の色になっていた。

裕也は幼稚園に入園する年齢になり、玲子は一人息子の裕也を地元でお金持ち子息が集まる私立の幼稚園に入れることにした。

紺色のブレザーを着た裕也の手を引き、玲子は幼稚園の入園式へ出掛けた。

夫である桂司は入園式に出席することさ許されなかった。

両親が幼くして離婚をしていた為に、不幸な少女時代を過ごした玲子は裕也を溺愛した。

そして、決して夫に向けられることのない愛情の全てを裕也に注ぎ込んだ。

そんな裕也は母親の玲子には甘え寄り添ったが、父親の桂司にはほとんど話しかけず、一定の距離を子供なりに取った。

裕也は子供心にも両親の仲が悪いのは感じていた。

玲子にばかり懐き、自分には近づこうともしない裕也を桂司は毛嫌いするようになっていた。

妻の玲子に支配され、家の中では自分の居場所を無くしてしまった桂司は、自分よりは弱い裕也へと鬱積された気持ちを向けるようになるのだった。


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