堕ちていく二人
桂司は玲子がドアを開けたのに気付くことはなかった。
玲子はきつく握りしめた包丁を振り上げ、桂司の身体をめった刺しにした。
鮮血がバスル−ム一面に飛び散り、桂司はその場に崩れ落ちるように倒れた。
桂司の身体からとめどなく流れ出る血液が、シャワーヘッドから出てくるお湯に流されて排水口へと消えていった。
玲子はその真っ赤な血液を、しばらくぼんやりと見つめていた。
裕也はまだ泣き続けていた。
その声が玲子の耳に届き、玲子ははっと我に返った。
桂司は間もなく出血多量のショックで息を引き取っていた。
玲子は桂司を殺してしまったことに後悔と罪悪感は全くなかった。
人を殺してしまったのに冷静でいられる自分自身に驚いていた。
ただ、裕也にはこの惨状を絶対に見せてはいけないと思った。
裕也は泣き疲れてその場にしゃがみ込んでいた。
玲子は返り血を浴びた服を脱ぎ捨て、死んでいる桂司の横で熱いシャワーを浴びた。
玲子は流れ出る熱いお湯で自分の身体に着いた血液と、過去の全てを洗い流してしまいたいと思った。