堕ちていく二人
貴之と約束の土曜日、夫の桂司は仕事だと言って朝早くから出掛けて行った。
玲子は最近ほとんどしなくなった化粧を久しぶりにしてみた。
鏡の前座り、薄いピンク色の口紅を塗った。
化粧が出来上がるにつれ、玲子は少女時代に味わった胸の高鳴りを覚えた。
どの服を着て行こうかいろいろと迷ったが、結局一番お気に入りの水色のワンピースを選んだ。
待ち合わせ場所には息子の裕也を連れて向かった。
中学校の正門に玲子と裕也が着くと、貴之は既に来ていて車から降りて大きく手を振った。
「玲子ちゃん、本当に久しぶりだね。今日はわざわざ来てくれてありがとう。会えて嬉しいよ」
貴之は昔のままの人懐っこい笑顔で言った。
「私の方こそ、貴之君に会えて嬉しいわ」
玲子は少し頬を赤らめた。
「この子は裕也君だったね。裕也君こんにちは」
貴之は裕也の名前と顔を年賀状で知っていた。
貴之が裕也に声をかけると、裕也は恥ずかしそうに玲子の後ろに隠れた。