私の名前、知らないでしょ?
二人とも食事が未だだったので、まおの誘導で近くのファミレスに入った。道路に面した窓際の席に向かい合い、俺はハンバーグセットを、彼女はエビドリアだけをオーダーした。若いのに少食だなと思った。
食事が運ばれて来るまでの間も、まおは悠然とタバコをふかしていた。俺自身はタバコを吸わないし、正直タバコを吸う女に好感は持てない。しかし、このサイトで出会う女は何故か皆、タバコを吸うのだ。なんか理由があるのだろうか?
まおは肱を着いた左手のひらに顎を乗せ、窓の外に視線を遣りながら呟いた。
「中学のときね、よくこの道路をバイクの後ろに乗っかって仲間と集団で走ったのよ。」
「パラパラ鳴らしながら?」
「そうよ。」
「なんか想像つかないな。」
「フツーやるでしょ!?若いときって。」
「やったことないよ。」
「マジで?あり得ない。」
まおは首を振りながらタバコを消した。なんだか互いの世界が遠く感じられ、俺は言葉を見つけあぐねていた。まおが続けた。
「でもバイクはもう興味ないわ。結婚して主婦になったら車買うの。あなたのお給料でね!」
いきなりど真ん中に豪速球投げ込まれた感じで、俺は返す言葉が見つからない。取って付けたように
「何に乗りたいんだ?」
と訊くと、まおは相変わらず顎を手のひらに載せて窓の方を向いたまま目だけ俺に視線を向けて答えた。
「セルシオかな。中古なら安いわ。公務員のお給料なら買えるわよ。それも免許取ってからだけど。」
「なんだ、まだ教習所行ってないんだ。」
「教習所のお金はお父さん出してくれるって言ってるから、あなたは心配要らないわ。でもまだ先よ。」
「取らないと不便だろ?」
「そうだけど、あたしまだ17歳よ。」
「何っ!?」
どういうことだろうか。サイトに登録するには身分証明書の提示が必要なのだが?
見掛けは女子高生なのにヤケに世間ズレしててオバサン臭い。そして実年齢は17歳だと言う。しかも、正体不明のこの女はどうも本気で結婚を考えているらしい。俺をその対象として!!俺は頭が混乱し始めていた…。
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