意地悪なヒト
「いーんちょおー、うそだよー、だから、待ってー?」
甘ったるい声で
私を引き止める梶原くん。
「待ちません。」
私は小さく、聞こえるか聞こえないかわからないような声で呟いた。
本当は、腕をつかんででも
引き止めてほしいのに…
憂いを帯びた瞳がゆれる
だけど、悲しみなんて
感じるわけがない
凍ったココロは
溶けないのだから。
「いいんちょ、どこ行ってたの?」
用事を済ませて教室に戻ると
梶原くんが待ってました。と言わんばかりに
私に笑顔を振りまいて
肩に手を乗せた。
「第二理科室です」
そう短く答えて
手を気にせずそのまま自分の席まで足を進めた
進むごとに肩から伝わっていた温もりは消え
一瞬、肩が凍ったように冷気を感じる。
まだ春だというのに。
私の後ろについてこようとする梶原くんに、
途端、小さなかわいらしい手が
目の前に現れた。
「たっくみー!」
きゃーっと言いながら、
梶原くんの首に手を回し
抱きつくのは、
クラスのムードメーカーの
沢村絵里さん
小さくて元気がよくて
かわいい人気者。
早い話が
私とは正反対。
「ぅおっ!?絵里ちゃん!」
抱きついてきた沢村さんの背中に反射的に手を添える梶原くんが
視界の端に映る
まぁ、お似合い…。
私は柄にもないことを思い、
そんな自分にため息をついた。