真夜中のみぎあし
五月雨の朝
5月の明け方は、まだ肌寒いと感じる。
どうしても毛布が恋しくて仕方がない。

夢見が悪い日が続いている。

眠りが浅いせいか、起き上がるのは酷く億劫だ。

今朝方も夢を見た。


薄ら白い足が、こちらを見つめるようにそこにある。
片の方しかない足は、丸く小さな親指が右を向いている。

こちらから見てそうならばそれは『みぎあし』だということだ。


そのみぎあしには、親指に真っ赤なベティキュアが塗ってある。

小さくて心もとないその爪に、そういった色をつける人物…

そして、まるで掴まれたかのような足首の赤黒い痣…

そんな自己主張の強い人物

いやみぎあしをボクはひとつしか知らない。


−凛…


キミはまだボクを忘れてはいなかったんだね…





凛との出逢いは、とうとつに、しかしゆるやかに、ボクを侵していった…


凛は亮の双子の妹だった。

高2の時、仲間内でやっていたバンドが
小さなライブハウスならワンマンでもそれなりに人が集まるようになった頃、
メインボーカルの亮が連れて来たのが、凛だった。


亮は、もてたい一心でバンドを始めたボクと違って、黙っていても女が寄ってくるルックスと、
どこかのレコード会社がライブを見に来るような歌唱力を持っていた。

そんな亮が、ワンマンライブに妹を連れて来ると言った。

そらは気まぐれだったのかもしれない。

しかし
ボク達の興味は俄然刺激された。

美人なら美人で、こちらはこちらで嬉しい。

不細工なら、それは完璧と言われる亮の唯一の汚点になる。

それも、こちらは楽しい。

ようするに、あの頃のボク達は、どうしたら女にもてるか?
どうしたらイイ女を連れて歩けるか?

もてるか奴のおこぼれに預かるか、
もてる奴をけなすか、
それくらいしか頭になかった。

頭にあったのはグラビアアイドルの水着姿か、他人の連れてる女の品定め。

ボクらは何ももっていなかった。

だからこそ、もってる奴らが羨ましく、もってる奴らをけなしたかった。




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