*coffret a bijoux*(SS集)
狭い通りの先に、目的地の
小さな看板が見えてきた。



コートのポケットに手を
突っ込み、ほんの少しだけ
歩くペースを速めた時――…。




「ちょっ……離してよ!」




喧騒の中で小さく叫ぶ声が
耳に届いて、オレは足を止めた。



(………なんだ?)



連れ同士の痴話ゲンカも
いざこざも、ここじゃ別に
珍しいことじゃない。



それなのに気になって
しまったのは……その
『離して』と叫ぶ少女の
声が、本当に全てのものを
拒絶しているように
聞こえたからだろうか。


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