アイ・マイ・上司【完全版】
「…んっ――」
驚く間もなく行き着いた先は、課長の唇・・・
「カシスオレンジでも飲んだ?」
「・・・ッ」
すぐにその唇が離れた瞬間、そっと耳元で囁かれる。
確かにカシスオレンジは、ビールと酎ハイから逃げる為に飲んでいたけど。
図星からではなくて、バクバク早まる鼓動と残された唇の微かな感触に動けなかった…。
ソレほど心は一気に、引き寄せられていたの。
アンバランスさを奪われてしまうほど、課長のキスは強靭なモノだったから。
俯くだけが精一杯なんて、20代のクセに情けない。
「物足りない顔してるけど…、フレンチの方が良かった?」
「・・・なっ」
不意に向けられるイタズラな笑みと、妖しく光った瞳で言葉なんか出て来ないから。
「鈴…ほら、帰ろうか?」
そうして目の前に、スッと差し出された大きな手。
知ってしまったアナタの感触を、そのまま受け取らずにイラレナイ――