アイ・マイ・上司【完全版】
触れた先から。
『二人でゆっくり飲み直そう――』
課長の一言に頷けば、そのままキュッと握る力が強められた手。
しなやかな指先にドキドキしつつ、繋いだ手を眺めて歩いていれば…。
「緊張してる?」
「…え、と」
顔を覗きこまれた途端、私の心臓はまた忙しなく動き始めた。
「鈴はホント、分かりやすい」
妖しくも愛でるような視線を投げ掛けられては、体温まで上昇してしまうのに…。
課長のエスコートによって到着した先は、モダンかつお洒落なバー。
路地裏に面したお店は、カウンターの他にテーブル席が数席だけという造りで。
ウッディさと間接照明が、どこか温か味を感じさせる空間だ。
「素敵な所ですね」
お客さんは落ち着いたオトナの人に、カクテルを作るマスターもダンディな風貌。
備え付けの棚には様々なお酒が鎮座しており、オトナの雰囲気が漂うから。
子供っぽさが抜けない私は、何だか異質に思えてならない…。