アイ・マイ・上司【完全版】
「そう?良かったよ。
俺のとっておきのお店だしね」
カウンター席に着いた課長が一笑すると、チクンと心に痛みを覚えてしまう私。
課長の言葉が“慣れ”を匂わせるから。
分かってる。コレは女性を落とす常套句でしかないのに…。
「此処に連れて来たのは、鈴が初めてだよ。
1人で過ごせる、誰にも内緒の店だしね?」
「…っ」
すると安定剤を処方するように、コソッと囁かれて。
またひとつ、ドクリと鼓動が打ちつけた。
ふわりと漂うオリエンタルなオトナの香りに、クラクラ逆上せそうで。
不意に放つ言葉は、私を捕らえて離さナイ・・・
「鈴…、俺のお勧めでも良い?」
「え、は、はい?
あの課長…、お勧めって…」
お酒に詳しくない私は頷いてから、どんな物なのか尋ねようとしたのに。
「この場で課長はナシだろ?」
「え…――」
課長から返ってきた言葉に反応出来ず、首を傾げてしまった。