アイ・マイ・上司【完全版】
よ、呼んじゃった…、ど、どうしよう…――
薄目を開けて隣をそっと窺い見れば、綺麗に笑っている彼と視線が合致した。
「フッ、正解――!
“さん”もナシでいいけど?」
「・・・っ」
お願いですから、身の程知らずの勘違いをさせないで…?
彼の名前は、稲葉 輝(イナバヒカル)。
31歳という若さで、経理部の課長を務めている。
名前が女子社員に知れ渡るほど、社内でも有名なイケメン有能社員だ。
だからこそ。いま現在、2人きりの状況自体がキセキなのに。
突然にキスされて、呼び捨てOKとまで言われれば。
普通すぎる私が…、勘違いしますよ――?
「分かった?」
「は、はい…」
そう頷いたものの、もう火照ったように熱い顔を上げられない私。
ムーディな照明に救われた気分だ。真っ赤すぎて耐えられそうにナイから…。