アイ・マイ・上司【完全版】
ダメだよ。無用な期待を持つなんて…―――
彼から逃げたくてカクテルを飲んだのに、余計に心が高鳴りを覚えて仕方ない…。
「なぁ、鈴・・・
このカクテルの意味、知ってる?」
「え…、し、知りません」
「今の鈴にピッタリだと思って、敢えてファジー・ネーブルにしたんだ…」
首を傾げて答えれば、彼がフッと笑って私の髪をヒト掬いする。
「あ…、あの…?」
触れた先から電流が走るように、胸の高鳴りが止まらない…。
“今の気持ち”って、どういう意味?
優しい眼差しを向けてくる彼の瞳に、問い掛けようとしたのに…――
目が合ったその刹那、私の肩に手が回されてグイッと強く引き寄せられた。
「どうすれば良いか…、鈴は戸惑ってるよな?
上司の本心はおろか、自分の気持ちも不確かで」
「っ・・・」
心を見透かされたのかと思うほど、核心を突かれてドキリと跳ねた心臓。
落ち着いた所作に潜む、妖しい声音に捉われた…――
「その曖昧さは、俺が全部取り払うよ。
鈴…、お前が好きだ――」
「か、ちょ・・・」
彼から放たれる、濃厚なウイスキーとオリエンタルな香りが混ざり合って。
ソレらは私を、一気に酔わせてしまう…。