アイ・マイ・上司【完全版】
惑わされては。
薄明かりの中でジッと見据える、その瞳の色も。
紡がれたフレーズも、どれもがお酒の回りを早めるようだ。
課長が、私を…、す、き――?
「で…、鈴は――?」
「え・・・」
呼吸さえ忘れていた状況をハッと覚醒させたのは、パニックを引き起こした張本人。
引き寄せてくる力強い手も、耳を擽るような彼の吐息も。
やけに色気を放つ、オリエンタルな香りだってそう。
貴方が、上司だから困るのに――
「鈴、聞いてる?」
「えっ、は、はい」
「心ここにあらず、って感じ」
それは貴方のせいじゃありませんか…?
「あ、あのっ…」
「ん、なに・・・?」
不利な状況の中で、意を決して声を出したのに。
敢えて甘い声色で続きを急かすなんて、確信犯だ。