アイ・マイ・上司【完全版】
もうどうしようもないくらい…、なのに。
どうしても、前進を恐れて何も言えずにいた。
上司という枷を通り越して、ただの男のヒトとして見ているのに。
身体だって…、余韻を頼りに熱いキスの続きを求めているのに。
もう彼のコトを、好きとしか言えナイのに…。
非現実的な夢から醒めるのが、怖いなんて言い訳をしてしまう。
「今日は良いから…、ゆっくり考えてくれる?
近いうちに、鈴の返事を貰うけどね」
返事に拱いて押し黙る私を、彼は咎めることなく。
大きな手で優しく、頭をひと撫でしてくれた。
「ッ・・・」
ふわりと漂う香りと手つきが、あまりに滑らかで。
嬉しさからか、向き合う怖さからか。零れ落ちる涙は止まらなかったのに。
――――――――――…
あの続きも、進展もナイのは、一体どうして…?
「ハァ・・・」
誰もいない閑散としたフロアに、溜め息がひとつ響いた。
アノ夜を思い出すのは、今日で何回目だろう…?