アイ・マイ・上司【完全版】


確かに、何てコトのない仕事で躓いてるくらいだし。


ドジっぷりは、経理部でも有名かもしれないけど。


それでも、出来ないなりにも一生懸命だったの。


課長に認めて貰いたい…、ただその一心に―――



「っ・・・」

悔しさと悲しさから、ジワリと視界が滲み始めた。



「ったく…、どうして泣く訳?」


「っ…、な、泣いてません!」


顔を覗き込まれた瞬間、フイッと視線を逸らして否定する私。



「ハァ・・・」

その態度に気を悪くしたのか、大きな溜め息をついた課長。


零れる涙を耐えられないから、ズキッと痛む心とともに俯いたのに。



「オマエは1人で頑張りすぎ…。

鈴…、もっと俺を頼れ」


「ッ――」

優しい声色が響いた刹那、震えていた身体を包み込んでくれた。



不確かなオトコから齎される甘言は、キケンなのに――…


あまりに不意打ちな態度が、またグッと貴方へ惹き寄せてしまう。


そう吐かれて、期待しない女はイナイでしょう?



涙まで引っ込んだ今はもう、彼を覆えるモノが何も無くなった。


そうしてシンと静まり返ったオフィスに、イヤな沈黙が流れていく。


< 32 / 65 >

この作品をシェア

pagetop