アイ・マイ・上司【完全版】
確かに、何てコトのない仕事で躓いてるくらいだし。
ドジっぷりは、経理部でも有名かもしれないけど。
それでも、出来ないなりにも一生懸命だったの。
課長に認めて貰いたい…、ただその一心に―――
「っ・・・」
悔しさと悲しさから、ジワリと視界が滲み始めた。
「ったく…、どうして泣く訳?」
「っ…、な、泣いてません!」
顔を覗き込まれた瞬間、フイッと視線を逸らして否定する私。
「ハァ・・・」
その態度に気を悪くしたのか、大きな溜め息をついた課長。
零れる涙を耐えられないから、ズキッと痛む心とともに俯いたのに。
「オマエは1人で頑張りすぎ…。
鈴…、もっと俺を頼れ」
「ッ――」
優しい声色が響いた刹那、震えていた身体を包み込んでくれた。
不確かなオトコから齎される甘言は、キケンなのに――…
あまりに不意打ちな態度が、またグッと貴方へ惹き寄せてしまう。
そう吐かれて、期待しない女はイナイでしょう?
涙まで引っ込んだ今はもう、彼を覆えるモノが何も無くなった。
そうしてシンと静まり返ったオフィスに、イヤな沈黙が流れていく。