貴方で酔わせて。-オトナの事情-
その武田さんに構う余裕も無く、私はただ溢れ出る涙を止められず。
私たちのせいで静まり返ってた店内に、パンパンと柏手を打つ音が響いた。
「お客さん、すみません!
迷惑を掛けたお詫びで、今日はぜーんぶマスターの奢りにしまーす。
ついでに2人も追放しますんで、俺で我慢して下さいねー」
声の主は駆け出しバーテンダーである、キョウくんで。
「おいキョウ!オマエ…」
彼のとんでもない発言に、当然オーナーの煌ちゃんが待ったを掛けようとしたのに。
“キョウくん、ほら早く作ってよ”
“あたし、桃のマティーニね”
突然の“奢り”という言葉で、一気に店内の覇気が戻ってしまう。
イイ女こそ、こういうトコロはしっかりしているのかもね…。
「てな訳で、ココはもう良いですよ」
「…分かった、テキトーに頼む。
伽耶、ほら行くぞ」
フフンと鼻で笑ったキョウくんに、呆れた表情を見せつつ納得したらしい。
カウンターを出て来た煌ちゃんは、私の手を引いてスツールから立ち上がらせた。